導入フェーズで止まらないためのオンボーディング設計

受注できても、使われない・定着しない・継続しない。これはプロダクト以前に、導入設計が弱いサインです。本記事では、最初の1社が回る状態を作る方法を解説します。

yap編集室|

受注できても、使われない・定着しない・継続しない。これはプロダクト以前に、導入設計が弱いサインです。オンボーディングを後回しにせず、最初の1社から設計することが重要です。


この記事でわかること

  1. オンボーディングの重要性: なぜ受注後に失速するのか、その構造
  2. 導入障壁の洗い出し: 初期設定・権限・社内調整など、見落としがちな壁
  3. 最初の成功体験の設計: 短期で成果を出し、定着につなげる方法

基本情報

項目内容
トピックBtoB SaaSのオンボーディング
カテゴリカスタマーサクセスガイド
難易度中級(CS担当・事業責任者向け)

なぜ受注後に失速するのか

オンボーディングの定義

オンボーディングとは、サービス導入直後の顧客の悩みや疑問を解消し、定着化する方法です。

ユーザーの初期定着支援を行うオンボーディングに失敗してしまうと、その後ユーザーがサービスを利用して成果を上げることは非常に困難になります。

失敗パターンの構造

特にSaaSはサブスクリプション型のクラウドサービスで、継続利用が基盤となるため、早期にユーザーを定着させる必要があります。

失敗パターン状況
初期設定が完了しない複雑な設定で離脱
使われないログインはするが活用されない
定着しない一時的に使われるが継続しない
継続しない契約更新時に解約

導入障壁を先に洗い出す

5つの典型的な障壁

障壁カテゴリ具体例
初期設定アカウント作成、データ連携、設定項目
権限・アクセス管理者承認、SSO連携、IP制限
社内調整情シス確認、上長承認、予算確保
運用負荷日次作業、データ入力、レポート作成
学習コスト操作方法、用語理解、活用ノウハウ

なぜハイタッチ(人的支援)が必要になるのか

SlackやZoomといったシンプルなユーザ体験を提供しているSaaS製品は、顧客側に特別な要求がなければ開発不要で利用開始できます。

しかし、「自社のサービスに決済機能を追加するSaaS」や「数万人規模が利用する社内の基幹システムと連携するSaaS」といった、既存のシステムや業務との深い統合が必要なSaaSの場合は、オンボーディングにおいてかなりの規模の開発が必要になる場合が多くなります。


決裁者と現場の認識ズレ問題

SMBで起きやすい問題

SMB(中小企業)の場合は「社長が他社の経営者から紹介されて…」「部長がCMを見て…」といった属人的な意思決定から導入が進むケースも多く、顧客内の決裁者と現場担当者の間で認識が一致していないケースが頻繁にあります。

その結果、契約が済んでいるにも関わらず以下のような状況に陥りがちです。

  • 社長の導入意図と現場の状況が擦り合っていない
  • 決裁した部長はやる気だが、現場担当者は全く前向きでない

対策:導入前の関係者確認

契約前または契約直後に、以下を確認するプロセスを入れます。

確認項目質問例
導入目的なぜこのサービスを導入しましたか
成功の定義何が達成できれば成功ですか
実際の利用者日常的に使うのは誰ですか
障害となりそうな点社内で反対しそうな人はいますか

最初の成功体験を設計する

"最初の1社が回る状態"とは

オンボーディングの目標は「全顧客に展開できる仕組み」を作る前に、最初の1社で価値を実証することです。

最初の1社で以下を達成します。

  1. 初期設定が完了する
  2. 主要機能が使われる
  3. 期待した成果が出る
  4. 継続意向が確認できる

成功体験までの期間を短くする

オンボーディングがうまく行けば、利用率が向上し、より顧客のビジネス目標に貢献しやすくなるため、製品やサービスの定着が期待できます。

短期で成果を出すためのポイント:

ポイント具体策
スコープを絞る全機能ではなく、1つの業務から開始
成果を可視化数値で改善を示せる指標を設定
期間を区切る「2週間で○○を達成」と明確に

オンボーディングの3つの段階

契約後3ヶ月以内:ハイタッチ

契約後3ヶ月以内の顧客に対して、導入支援チームが定着化を支援するハイタッチの施策を行います。

施策内容
キックオフミーティング目標設定、スケジュール合意
セットアップ代行初期設定のサポートまたは代行
トレーニング利用者向けの操作説明
定期フォロー週次での進捗確認

3ヶ月以降:ロータッチ

それ以降はロータッチに移行し、カスタマーサクセスチームが継続的なサポートをする仕組みがあります。

施策内容
ウェビナー活用事例の共有、新機能紹介
ヘルプセンターセルフサービスでの問題解決
定期メール利用状況に応じたTips配信

つまずき時のフォローアップ

顧客がオンボーディング完了基準に到達しない場合は、早い段階でフォローアップを行う必要があります。

  • 基本設定でつまずいている顧客にはセットアップ代行を提供
  • 進捗が遅れている場合は補足的なトレーニングやウェビナーを開催

運用に必要な最低限の資料整備

必須ドキュメント

オンボーディングを仕組み化するために、以下の資料を準備します。

資料目的
セットアップガイド初期設定の手順書
クイックスタートガイド最初に使う機能の操作説明
FAQよくある質問と回答
成功事例同業他社の活用事例

チェックリスト形式の導入管理

顧客ごとに以下をチェックリストで管理します。

## オンボーディングチェックリスト

### Week 1: 初期設定

- [ ] アカウント作成完了
- [ ] 管理者招待完了
- [ ] 基本設定完了

### Week 2: 基本操作

- [ ] 初回ログイン完了
- [ ] 主要機能の利用開始
- [ ] 初期データ登録完了

### Week 3-4: 活用開始

- [ ] 日常業務での利用開始
- [ ] 成果指標の測定開始
- [ ] 追加ユーザーの招待

### Month 2-3: 定着確認

- [ ] KPI達成確認
- [ ] 継続意向確認
- [ ] 追加活用の提案

よくある質問(FAQ)

Q1. オンボーディングにどのくらいのリソースをかけるべきですか?

初期は顧客獲得コスト(CAC)の一部として考え、十分なリソースをかけるべきです。定着しなければLTVが下がり、事業が成立しません。目安として、最初の3ヶ月は1顧客あたり週に数時間のサポート時間を確保します。

Q2. 顧客が忙しくてオンボーディングが進まない場合は?

「忙しい」は優先度の問題です。導入目的と期待成果を再確認し、小さく始められるスコープに絞ります。それでも進まない場合は、決裁者を巻き込んで期限を設定してもらいます。

Q3. オンボーディング完了の基準はどう設定すべきですか?

「ログイン回数」ではなく「価値を実感した状態」を基準にします。例えば「最初のレポートを出力した」「最初の業務を完了した」など、顧客にとっての価値実現をトリガーにします。

Q4. セルフオンボーディング(人手をかけない導入)は可能ですか?

製品の複雑さと顧客の習熟度によります。プロダクト自体がシンプルで、顧客のITリテラシーが高ければ可能です。ただし、チュートリアル、ヘルプセンター、チャットサポートの整備が前提です。

Q5. オンボーディング後に利用が減った場合はどうすべきですか?

利用減少のアラートを設定し、早期に介入します。原因を特定し(担当者変更、業務変化、機能の問題)、適切な対策を打ちます。放置すると解約につながります。


まとめ

主要ポイント

  1. 導入障壁を先に洗い出す: 初期設定、権限、社内調整など、見落としがちな壁を事前に特定する
  2. 最初の成功体験を短期で作る: スコープを絞り、2-4週間で価値を実感してもらう
  3. 決裁者と現場のズレを解消する: 導入目的と成功の定義を関係者間で合意する

次のステップ

  • 現在の顧客のオンボーディング完了率を測定する
  • つまずきポイントを分析し、対策を立てる
  • 最低限必要なドキュメントを整備する

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参考リソース


この記事を書いた人

yap

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株式会社yapの新規事業開発コンサルタントたちによる編集チームです。新規事業の仮説検証・PMF設計、営業推進に関する知見を、さまざまなプロジェクト支援の経験をもとに発信しています。