新規事業は「良さそう」だけでは進みません。どれだけ革新的なアイデアでも、社内稟議で止まれば形にならないのが現実です。
この記事でわかること
- 稟議が通らない5つの根本原因: なぜ新規事業提案は社内で止まりやすいのか
- 決裁者が本当に気にする6つの論点: 上司・関係部門の視点を先取りする
- 説明資料の適切な粒度: 情報過多でも不足でもない、意思決定に必要な情報の揃え方
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | 新規事業の社内承認 |
| カテゴリ | ビジネス実践ガイド |
| 難易度 | 中級(事業企画経験者向け) |
なぜ新規事業の稟議は通らないのか
経営者・決裁者の思考を理解する
経営者や上位役職者は常にリスクを最小化したいと考えています。この思考を理解できているかどうかが、社内稟議の成否を分ける最初のポイントです。
稟議が通らない典型的なNGパターンは以下の5つです。
| NGパターン | 具体例 |
|---|---|
| リスク対策が曖昧 | 「問題が起きたら対応します」 |
| 一般論だけで構成 | 「市場は成長しています」止まり |
| 根回し不足 | いきなり稟議書を提出 |
| 表現が伝わらない | 専門用語の羅列、抽象的な説明 |
| 会社の文脈との乖離 | 自社の強み・経験と無関係に見える |
稟議は「正しさ」ではなく「納得感」で通る
新規事業の提案は、論理的に正しいかどうかだけでは決まりません。決裁者が「この人に任せて大丈夫」「このリスクなら取れる」と感じられるかどうかが重要です。
決裁者が気にする6つの論点
社内説明でつまづくのは、決裁者が気にするポイントを先回りできていないからです。以下の6つの論点を明確にしておけば、会議が増えるほど進まないという状態を避けられます。
1. なぜ今やるのか
「良いアイデア」だけでは不十分です。なぜ今このタイミングで取り組む必要があるのかを説明できる必要があります。
回答すべき問い:
- 市場環境の変化は何か
- 競合の動きはどうか
- 遅れることのリスクは何か
2. 誰の何を解決するのか
対象顧客と課題を具体的に定義できていないと、「結局、誰が買うの?」という質問に答えられません。
回答すべき問い:
- ターゲット顧客は誰か(属性・規模・状況)
- 顧客が抱える課題は何か
- 課題の深刻度はどの程度か
3. いくらで成り立つのか
収益構造が不明確なまま「とりあえずやってみたい」では通りません。黒字化のタイミングと根拠を示す必要があります。
回答すべき問い:
- 価格設定の根拠は何か
- 変動費・固定費の構造は
- 損益分岐点はいつか
4. どう検証するのか
いきなり本格投資ではなく、小さく試して学ぶ計画があるかどうかを確認されます。
回答すべき問い:
- 最初の検証で何を確かめるのか
- 検証にかかるコスト・期間は
- 判断材料として何を取るのか
5. いつ判断するのか
「ずっと赤字で続けることにならないか」という懸念を払拭するため、判断のタイミングと基準を事前に決めておきます。
回答すべき問い:
- 次の判断ポイントはいつか
- 続行・中止の基準は何か
- 誰が判断するのか
6. リスクと対策は何か
想定されるリスクを洗い出し、対策を事前に準備しておくことで、「考えが甘い」という印象を避けられます。
回答すべき問い:
- 最悪のシナリオは何か
- 既存事業への影響は
- 撤退する場合の手順は
稟議を通すための5つの実践テクニック
1. ステークホルダーマップを作る
稟議を通す上で乗り越えなければならない決裁者(ステークホルダー)をピックアップし、各決裁者が何を期待しているのか、どんな思惑を持っているのかを一覧にして管理します。
| 決裁者 | 立場・関心事 | 想定される質問 |
|---|---|---|
| 事業部長 | 既存事業との整合性 | カニバリは起きないか |
| 経理部長 | 投資回収の見通し | 黒字化はいつか |
| 法務部 | コンプライアンスリスク | 法的な問題はないか |
2. 根回しは「反対されそうな人」に集中する
根回しのポイントは、反論が出そうなところにリソースを集中することです。自分よりも社歴が長く、社内の土地勘に明るい"物知り"を頼り、誰に反対される恐れがあるのかを教えてもらうのが効果的です。
3. 大義名分を明確にする
稟議を通すコツは「大義名分」です。上層部の方針と自分の提案がいかに合致しているかを証明することが重要です。
経営方針書や中期計画を読み込み、「この提案は○○戦略の具体化である」と位置づけられると強力です。
4. 過去の成功事例を参考にする
同じ部署で過去に通った稟議書を参考にするのも効果的です。過去の成功例を分析することで、どのような情報が求められているのかが見えてきます。
5. 専門用語を避ける
専門的な表現や社内用語ばかりになると、読み手が詳しくない領域では内容が伝わりません。専門用語は、かみ砕いた説明や具体例を添えて使い、読み手に伝わりやすくします。
説明資料の適切な粒度
意思決定に必要な情報だけを揃える
説明資料は「詳しければ良い」わけではありません。粒度を上げすぎると、本質が埋もれてしまいます。
NG例:
- 100ページの市場調査レポート
- 3年分の詳細なPL計画
- すべての競合を網羅した比較表
OK例:
- 1枚でわかるエグゼクティブサマリー
- 検証期間の必要投資額
- 上位3社との差別化ポイント
資料構成のテンプレート
| セクション | 目的 | 分量目安 |
|---|---|---|
| エグゼクティブサマリー | 結論と要点を伝える | 1ページ |
| 市場機会 | なぜ今か、市場規模 | 1-2ページ |
| 事業内容 | 何を誰にどう提供するか | 2-3ページ |
| 収益計画 | いつ黒字化するか | 1-2ページ |
| 検証計画 | 最初の一歩の内容 | 1ページ |
| リスクと対策 | 想定リスクと対応策 | 1ページ |
よくある質問(FAQ)
Q1. 上司が新規事業に否定的な場合、どうすればいいですか?
まず上司が否定的な理由を把握することが重要です。過去の失敗経験、リソース不足への懸念、自身の評価への影響など、背景にある理由を理解した上で、その懸念を解消する提案に組み替えます。小さな検証から始める提案に切り替えるのも有効です。
Q2. 数値根拠が弱い段階で稟議は通せますか?
検証前に完璧な数字は出せません。代わりに「この検証でこの数字を取る」という計画を示します。類似事例の数字を参考値として提示しつつ、自社での検証計画を明確にすることで、数字の精度を上げていく姿勢を見せます。
Q3. 既存事業部門から反対された場合の対処法は?
カニバリゼーションの懸念が根底にあることが多いです。対象顧客の違い、既存事業との相乗効果、将来的な市場変化への備えとしての位置づけなど、既存部門にとってもメリットがある形で説明します。詳しくは関連記事を参照してください。
Q4. 稟議の決裁に時間がかかりすぎる場合は?
決裁プロセスを可視化し、どこで滞留しているかを特定します。根回しが不十分な決裁者がいれば個別にフォローし、情報不足があれば追加資料を準備します。定期的な進捗確認の場を設けることも有効です。
Q5. 何度も差し戻される場合、諦めるべきですか?
差し戻しの理由を分析します。「情報不足」であれば追加で対応可能ですが、「そもそもやるべきでない」という判断であれば、タイミングや提案内容自体を見直す必要があります。3回以上差し戻される場合は、提案の根本を再検討することをお勧めします。
まとめ
主要ポイント
- 決裁者の視点を先取りする: リスク最小化を求める経営者の思考を理解し、6つの論点を事前に整理する
- 根回しと大義名分: 反対されそうな人への事前説明と、経営方針との整合性を明確にする
- 適切な粒度の資料: 情報過多を避け、意思決定に必要な情報だけを揃える
次のステップ
- 次の稟議前に、6つの論点のチェックリストを埋めてみる
- ステークホルダーマップを作成し、根回しの優先順位を決める
- 過去に通った稟議書を入手し、構成を分析する
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参考リソース
この記事を書いた人
yap編集室
株式会社yapの新規事業開発コンサルタントたちによる編集チームです。新規事業の仮説検証・PMF設計、営業推進に関する知見を、さまざまなプロジェクト支援の経験をもとに発信しています。